遺言するには意思能力が必要となります。意思能力とは自らが行う遺言の内容を理解し、その遺言の結果どのような効力が生じているかわかることです。どの程度なら、意思能力があるかについての明確な基準はありません。
弊事務所には、「認知症の父は遺言書を作ることができますか?」というご相談が寄せられることもあります。認知症となった場合、遺言作成が難しい場合もありますが、絶対に遺言書を作成できないというわけではありません。認知症にも程度があります。後々相続人から「あの時お父さんはボケていたからこの遺言は本意で書いたものではないから無効だ」と言われて裁判になって争うのが遺言作成段階から目に見えるようなケースでは、遺言自体を作成しないという判断をするのが通常と思われます。
遺言作成の際の意思能力が争われた場合の、過去の裁判例からの判断基準は以下のようなものですが、個別の事案ごとに「総合的にみて」判断が行われます。
・その遺言作成は、遺言者の自発的な意思か
・遺言者の判断能力について、医師の判断はどうか
・遺言の内容は複雑ではないか
・遺言で財産をこのように分けることにした理由が、今までの人間関係からみて合理性があるか
年齢を重ねると、多くの方が物忘れや会話が部分的に理解できないなどさまざまあることでしょう。それでも、遺言を作成したいと思われる気持ち、遺言を作らなければならないという状況、これらは尊重されるべきだと思います。お一人で悩まず、まずはご相談ください。法律のことや相続のことなどある程度ご理解いただけるようでしたら、作成できる場合もあります。もし作成できる可能性があれば、少しでもそのお力になりたいという思いは強くもっております。また、トラブル防止策として、いったん遺言を作られた後も、生活状況、人間関係の変化に応じて、この遺言でよいか、判断能力がしっかりしているうちに、ぜひ定期的に見直されることをおすすめいたします。方式については、自筆証書遺言の場合は、その遺言があるせいで、トラブルのもとになる可能性もありますので、遺言作成の際は、士業を関与させてチェックを受けられた方がよいと思います。遺言を作るならば、ぜひ公正証書で遺言を作られることをおすすめいたします。多少のお金はかかりますが、親族間で争いになった場合の、精神的ストレス、時間の浪費、家族関係の崩壊に比べると、ずっと良いと思います。